数年前、香川県に住んでいたころ、遠方から遊びにきた友達と一緒に金比羅山を登りました。
本殿の参拝を終え、奥社への山道を歩き出した頃、どこからともなく身軽なおじいさんが出てきて声をかけてきました。毎日下から奥社まで何往復もするのが日課とのことで金比羅山で知らないことはないとのこと。
沿道に並んだ灯籠の説明、手紙の木と呼ばれる木の葉の裏に鮮明に書き残された昔の人の手紙を見せてくれて説明してくれました。昔の有名人の手紙もあり、カタカナ混じりの手紙もありました。昔の人は葉っぱの裏に書いても達筆だったんですね。などと話したのを覚えています。いろんなことを教えてくれながら一緒に登り、奥社の岩壁にある天狗の説明をしてくれたところで、じゃあ俺は脇道からまた降りるから、奥社はすぐそこだから‼️と誰も入らないような脇の山道を去って行きました。
彼の格好はわりとオシャレな登山仕様でライムグリーンの小さなバックパックを背負い、痩せ型ですらっと筋肉質、髪は長めで現代風仙人のような感じでもありました。
その後、そんなに時間のたたないうちに夫と登ったときにその話をしました。
ここの灯籠はね…ない
この木は手紙の木と言ってね、葉っぱの裏に昔の人の手紙が…ない
そのおじさんはね、この辺りの脇道に…ない
あの日鮮明に見たものが何ひとつなかったのです。
そしてその後、何度、金比羅山の奥社まで登拝しても彼を見かけたことはありません。
今もその時の友達と会うと、あんな話もしたよねー、こんな話もしたよね、変なところから帰って行ったよねー
でも、その道も何もかもないんだよ、あのおじさんと私たちが見せられたものは一体なんだったのだろうという話をします。